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菊地マリコ著:『真夏の夜、私は逃げ場のない毒に犯される。』(閲覧注意)

 
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菊地 マリコ
ボイスアーティスト 菊地マリコ。

教員免許を持つナレーター、多重録音シンガーです。

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電車に揺られて数時間…タクシーで田舎道を走ること数十分…。

 

 

「お空が広くていいですね。この景色が見れるだけでも、来た甲斐がありました。」

 

 

クーラーの効いた車内の窓から真っ青な青空と田園風景を見つめ、

私は思わずつぶやいてしまった。

 

 

「……そうですか?」

 

クールな運転手さんが私が独り言にしては

楽しそうに言うものだから気を利かせて返事をしてくれた。

 

 

「お客さんー…こんな何もない辺鄙なところによくお一人でいらっしゃいましたね。」

「そんなことないですよ!いつもと同じ生活じゃ頭が固くなりますでしょう?

日常生活から、ちょっと違うことをしてみたくなりまして。リフレッシュ旅なんです。」

「そうですか。素敵な旅行になるといいですね。」

 

 

急遽押さえた弾丸旅行。

夏休みの真っ只中なのに、奇跡的に空きが取れた4泊5日間。

 

向かうは歴史ある伝説の秘湯旅館である!

 

秘湯に浸かって。本を読んで。未来を整理して。

 

「ここで得られるものが多そうだ。知らない私に出会えるかもしれない。」

 

 

私はこれから起こる素敵な5日間を想像して

ワクワクした気持ちを抑えることができずにいた。

 

 

 

…そう、この瞬間までは。

 

 

 

※閲覧注意:

これは私の真夏の実体験に基づいて構成された体験談です。

(を、ちょい盛りしたものですが、実体験100%に基づいております。)

グロテスクな演出やシーンがあるので、

真夏のクールダウンにお役立ていただけたら幸いですが、

苦手な方はこれ以上は進まないでください。

 

 

 

 

ミネラル豊富の湧き水、

 

効能抜群の温泉、

 

土地から感じるエネルギー、

 

マイナスイオン、

 

ゆったりとした時間、

 

今までに無かった素晴らしいロケーション。

 

 

この場所は、私の凝り固まった思考をとろとろに

ほぐすのに充分なもので満たされていた。

 

 

チェックイン手続きを済ませると、

これから5日間寝泊まりする宿泊室、旧棟に案内されることになった。

 

 

旧棟は本館から離れ、森の中の小さな小屋にあたる。

 

 

ザリ、ザリ、ザリ、と砂利道を渡って

古いガタガタのドアをキィ…と鳴らして開けると………

 

黒く湿気感のある部屋のド真ん中に、

埃にまみれた見たこともない物体がお出…迎え…してくれた。

 

 

……目のピントが合わない。

 

よく瞬きしてからもう一度見ると、

甲殻類の足だけが30本くらい束になってまみれているみたいな、

魑魅魍魎みたいな、なんとも巨大な物体が倒れていたのだ。

 

 

「ギャアアアアアアーーー!!」

 

入り口のドアを開けて思わず叫んでしまった。

だって今まで出会ったことのない生き物?だったから。

 

あれはなんだったのだろう…。

強いて言えば、エイリアン、否、魑魅魍魎、としか例えようがない。

女一人で眠るには寂しそうだからと気を遣ってくれたのだろうか。

 

 

靴を脱いで部屋に上がる。

湿った畳に敷かれた布団のすぐ隣には、踏み潰された羽虫が一匹。

そこにダニやチャタテムシが50匹ほどゾワゾワ〜と集まっていて、

その賑わいっぷりはまるで女子会のようである。

 

「「「いらっしゃいキクマリ♪♪一緒に恋バナでもする〜〜?」」」

 

 

別室のバスルームには、大きな蜘蛛が巣をはっている。

 

「こんにちはマリコさん!ゆっくりしていってね。」

 

この蜘蛛を外に逃がすため窓を開けようとしたら、網戸がボロッと庭に落っこちた。

 

 

トイレには脚の長い蚊が、ヅゥーーーンと羽音を立てながら、ダンスをしている。

この子は滞在中、最後の最後まで、私の耳元でファルセットを歌い続けてくれていた。

 

 

 

こういった一連のウェルカムパーティーを経て始まった初日だったが、

本気の宴会は、もっと後。

そう、本番は、日が暮れ街灯がまばゆく光り出してからである。

 

 

 

私の部屋は本館から離れている。

 

本館の宴会場で奇跡の湧き水で作られた美味しい食事を味わい、

滑らかで優しい秘湯にもゆっくりと浸かり、

心身が満たされホクホクと上機嫌の私。

 

宿泊旧棟に到着すると、ドアの前で瞬時に凍りついた。

 

 

 

入り口ドアには大きな蛍光灯がチカチカと光っている。

 

暗くなれば当然、大量の羽虫たちが総動員で電灯に体当たり。

 

 

コン、コンッ、コココンッ!と軽快な打楽器アンサンブルが始まっていた。

 

 

…そうだ、まずはこのドアを突破して部屋に入らないと行けないんだ。

 

 

意を決してすばやく鍵を取り出し

ガシャガシャと古い鍵穴をいじくっていく。

 

 

しかしながら数センチ目の前の激しい打楽器アンサンブルに手足が震えて

鍵穴に上手に差し込むことが……出来ない!!

 

 

「えっと、えっと、鍵穴、鍵穴、、!!」

「「…オネーサン!ひとり?オレたちも部屋に入れてくれョ。」」

 

チャラめの羽虫たちが、

ヴーンヴーンと猛烈な羽音を立てながら、私の耳元まで来て囁いてくる。

 

あまりのサプライズに思わず「ぬあっ」とたじろいだら、

左肩の5mm隣には、

 

……黒々とした、蜘蛛!!!!!

 

 

「あぁごめんなさいね、ちょっと待って、いまどくから〜〜」

 

と言わんばかりに、星屑まばゆい夜空に登って勢いよく消えた。

 

この部屋を出てからほんの4時間弱。

巣作りに対してなんとモチベーションの高いこと!

 

呆然と見上げたまま固まっていると…。

 

「抜き打ちファッションチェックするぜぇーー!」

 

突如大きな蛾がやってきて、

肩に下げていたトートバッグに張り付こうとしてきた。

 

そうだった、真っ白だったんだこのセーラームーンのトートバッグ。

これはイカン!

わたし、蛾をお部屋にお持ち帰りしてしまう!

 

 

そんなこと、させてたまるか!

 

瞬間ドアを開け、素早く身体を入れ『ガチャリ!』

 

鍵を閉めることに成功した。

 

 

 

……ハァーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

高速に脈打つ鼓動。

肺から逃げていく二酸化炭素。

 

秘湯で流したサラサラ肌は何処へやら。

Tシャツの裏をダラダラと冷たい汗が流れている。

 

 

 

無理やり深い深呼吸をして落ち着かせ、

パチッと電気を付けると、

 

途端。

 

ゴキブリの赤ちゃんと目が合った。

 

 

「バレちゃったー!逃ーげろおー!」

 

力一杯闇の奥に逃げ込む赤ちゃん。

 

どうやらかくれんぼの途中だったようだ。

 

 

そして同時に、、、

 

「…ふぅん。ここが君の部屋なのかい?」

 

背中からかすかに聞こえる羽根の当たる音。

しまった背後の隙を突かれた!

 

 

首をキリキリとひねってドアに向けると、

やはり、、、、

 

大きな蛾を……お持ち帰りしてしまったらしい。

 

 

「ふっ。…いい部屋じゃねーか。さぁ、邪魔するぜぇ!!」

 

彼はヴンヴンヴンと羽音を立てて

部屋中を激しく飛び回り物色し出した。

 

 

あぁ…あぁ…やめて…お願い…やめて…。

 

あなたが暴れると、壁や天井に溜まっている大量のホコリが、

キラキラと魔法の鱗粉を撒き散らして、お部屋中を幻想的にするの。

 

 

貴方がロマンチストなのは分かった。

だけれど私はそれを、これっぽっちも、全く望んでいない。

 

 

居間の網戸とガラス窓の隙間には、

5cmくらいの巨大な羽虫が挟まっている。

 

「おかえりマリちゃん、ねぇ僕もお部屋にいれて〜〜」

 

室内の明かりに覚醒したのか、ブンブンと網戸をノックする。

 

 

だめだよ!

この居住スペースには、誰も、誰にも入れさせないんだから!

 

 

みんなが私の事を好きなのは分かった。

 

でも、お願い!私を放っておいてよ!!!!

 

みんな今すぐ出てって!!!!!

 

今すぐ帰ってー!!!!!!

 

 

 

 

すぐさま浴衣に袖をとおし電気を消した。

 

電気が付いているとみんなが集まってくる。

 

そうだ、こんな日は早く寝てしまおう。

 

そうさ電気さえ消えれば、明日の朝にさえなれば、

きっと何事もなく落ち着いているんだ。

 

 

 

すると、

今度は静寂の瞬間の中から小さく

 

 

…かさ、かさかさかさ。

 

 

『ぽとり。』

 

 

……今度はなんだ!!!!!

 

 

 

体を起こし蛍光灯を激しく付けると、

全長12cmくらいの大きな茶色のバッタ?が落ちてた。

 

 

「夜這い、大成功。」

「な、なに!」

 

 

バッタと私の目が合ったように思えた。

 

 

その瞬間。。

 

 

「マ〜リコちょゎ〜〜ん!!!」

 

 

一目散に私を目かけて

ビヨーーーーーンと飛びかかってきやがった。

 

 

「ぎいゃああああああーーーーー!!!!!!!」

 

 

静まり返った深夜の森のなか。

私の心の叫びが山と谷の間で見事な

ピンポンディレイがかかったように感じたのだった。

 

 

 

 

 

こうして、私の5日間は幕を閉じたのである。

 

この5日間。

 

私には恐ろしいほどの集中力が備わっていった。

 

 

ここの生活で、余計なことは考えちゃいけない。

(気をぬくと隣に虫がいるから)

本を読むなら、本に集中しないといけない。

(気をぬくと隣に虫がいるから)

この世の中は喰うか喰われるか。

 

 

「本の虫」になるか、

「虫に襲われる」か。

なのである。

 

 

 

おかげで私は本を死ぬほど読めて、

知識を存分にインプットすることに成功した。

 

断捨離するにはもってこいすぎる環境。

 

頭の中も余計なことは考えない。

かなり整頓された気がしている。

 

 

綺麗な湧き水と、美味しい食事、秘湯に浸かって。

身体と環境を自然なもので目一杯に満たしていく。

 

 

それから、、、

 

私は自分が思った以上に寂しがりやだということも分かった。

(もしかしたら、そう思うのも仕方のない宿泊システムなのかも(笑))

 

 

人間が、恋しい。

 

皆さんがいつでもそばにいて。

 

私の発信に対していつも応援やエールを送って下さって。

 

ライブをすれば足を運んで会いに来てくださる。

 

沢山コミュニケーションをして。沢山笑って。

 

 

私は、人間だ。

自然も、動物も、大好き。

そして、人間は心までも触れ合える存在だ。

 

心に触れられるって特別なんだ。

人間の愛って、暖かくて、優しくて、幸せな気持ちにさせてくれるんだ。

私はずっと皆さんと寄り添って生きたい。

私は皆さんが必要だ。皆さんがいるから前を向ける。

私はまだまだもっと、頑張って、成長していきたいんだ。

 

きっとこの気付きは、私に必要なことだったのだ。

きっと私はここに来れて良かったのかもしれない。

 

 

素晴らしい断捨離期間とともに、

新しく生まれ変わった私がこの先発揮できるように、

この5日間決してムダにはせず、人間界に戻って頑張っていきたいと誓ったのある。

そしてもう二度と行くまい、とも思ったのである。

 

 

追伸:

実は虫が本当に苦手です。かなりトラウマでした。

この日記には虫たちとの生活をメインに書きましたが、

旅館の方はとても気さくで優しくて、過ごしやすくて、とても楽しかったです。

8月ものこり数日ですね。

風邪には気をつけて楽しく乗り越えましょう^^

 

<完>

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